62.イチローとヨシオ

ヨシオがシャチホコタウンへ異動となってだいぶ経った。

シャチホコタウンへ私とマシューに来て欲しいのならば、
ヨシオの都合に私が合わせるのである、
それなりに誠意の見える準備をするべきだろ、と言ってあったのだが、
以前ヨシオが探してきた引越し先の物件は、なんとも残念な気分になるものだった。
知らない土地で、知人もいなく、仕事もなく、
なにより暴れて吠え狂う犬を抱えている。
ご機嫌で引越しを決められる感じではない。
そんなわけで私とマシューは相変わらず東京のとある町に居残っているわけだが、
ヨシオから日曜日にこんな電話があった。

「あのね、イチローが飼っている犬の一弓（いっきゅう）さんっていうのがいてね、
でね、イチローが引っ越したアパートに一弓さんが慣れなくて、
セントラルパークの近くのもっといいアパートに引っ越したんだよね・・・」

開口一番、こんな話をされ、だからなんだ、と私は少々憤った。
が、話を聞くに、要するに飼い犬を思うイチローに感化されて、
マシューのために、予算を少々上げてみた、という話だった。

イチローは飼い犬”一弓”を「いっきゅうさーん！」と呼ぶ。

感化されやすいヨシオはもちろん・・・・